アレルギーの臨床 2010年30巻1月号 論文内容 (優秀論文賞受賞)

 現代歯科治療の問題点

(金属アレルギー診療を中心に)

Problems of the modern dental treatment
Mainly on allergy to metal treatment

香川県観音寺市タカシ歯科開業

歯学博士 昌山 孝

近年、国民のアレルギーへの関心が深まり、個々の健康への取り組みもそれにつれ大きくなっている。歯科材料は、患者の口腔内に何年、何十年と存在し続け、この間、唾液やプラーク中の細菌、酸性食品により腐食の脅威にさらされています。金属イオンは、消化管から吸収されて生体内に取り込まれます。

取り込まれた金属イオンがどの程度の摂取量で有害性やアレルギー反応が発現するかは個人差があります。当院では、問診時、金属アレルギーの疑いがある患者の中で、希望者に近隣の皮膚科に紹介し,パッチテストを行ってもらっているが、かなりの確率で陽性が出る。歯科金属アレルギーによる疾患に様々な歯科金属疹が報告されている¹が、保険制度中心の歯科医療はいかにアレルギー陽性率が高い金属が使用されているか、理解してもらい、国民への認知度を上げ、現状が少しでも改善されれば幸いと思います。

当院における金属アレルギーへの取り組み

当院では、問診時、金属での接触皮膚炎の既往の有無を聞きます。歯科治療を行う上で金属を使用するケースが多いため、問診にて「ある」と答えた方に、皮膚科でのパッチテストの説明をし、希望であれば、パッチテストを依頼します。パッチテストの判定基準は、2,3,7日の反応をICDRG基準で行ってもらい、検査報告の確認の後、補綴治療に入ります。

年間20人程依頼しておりますが、かなりの確率で何らかの金属で陽性が出ます。問診で「ない」と答えた方でも、歯科治療をこれから行う上で、興味があり,心配だからという理由で受ける方もいますが、そういった方でも陽性反応が出る場合もあり、潜在的にかなりの金属アレルギー陽性者がいると推測できます。

パッチテストにて陽性反応になった場合、その元素を含む金属を使用しない事が必要ですが、保険で決められた金属(表1)以外を使用する場合は、自費になってしまいます。メタルフリーのセラミックスやバイオメタルと言われる4元素位の高価ラットの金属は、生体安定性に優れておりますが、非常に高価というのも欠点です。掌蹠膿疱症口腔扁平苔癬のように、症状が出ている場合でパッチテスト陽性の元素が口腔内に存在する場合は,除去する事も必要になります。当然、他の慢性疾患も原因の一つが考えられますが、除去後の反応を診て原因が口腔内の金属どうかを判定するしか方法がありません。

しかし,既に口腔内に入っている金属を撤去するには、我々歯科医師の負担以上に患者にとっても経済的(保険適応外)、時間的負担が少なくありません。欠損補綴(入れ歯)の場合もクラスプと呼ばれるバネの部分は、保険の範囲では、コバルトクロムか(表1)の金銀パラジウム合金のため、使用できない場合も少なくありません。その場合、強化プラスチックのクラスプやチタン等の義歯や人工歯根(インプラント)を使用するしかなくなりますが、当然、保険適応外になります。また、最近、チタンはアレルギーの少ない、生体安定性に優れた材料であることは事実ですが、チタンの口腔内での腐食²やアレルギー報告されています。

保険制度の問題点

最もアレルギーの多いとされているニッケルは,保険制度ができた時点から日本の厚生労働省が認可している歯科材料として現在も点数表に記載されております。子供の治療時に使用できるものは,ニッケルの乳歯冠か、銀合金の鋳造補綴物しかありません。(写真2)は、銀68パーセントの合金ですが、口腔内でも早期に黒く変色してしまいます。

乳歯はどうせ抜け変わるからという理由で粗悪で低価格の材料しか認められず、我々は仕方なく子供の口に入れていると言う状況です。口腔内という非常に過酷な環境(温度、ph、力)の中で、撤去、脱落するまで存在し、イオン化された金属イオンが、生体に及ぼす影響を考えると不安になってきます。最近では、保護者の方からも、「子供の口に金属を入れて大丈夫なのですか?」とよく聞かれますが、「保険では仕方がないので」としか答えようがありません。

(写真3,4)は、歯科治療のため当院に来院された患者様ですが、掌蹠膿疱症の疑いがあったため、パッチテストを依頼したところ、ニッケルとパラジウムに3,7日後強陽性の反応が出ました。金属アレルギーのために口腔内の金属を除去するには、厚生労働省の認めた病名がつかないため、全て自費診療になってしまいます。また、ポストと呼ばれる金属の芯に補綴物が入っている場合は、撤去が非常に困難になります(写真5)。この患者様も1年治療に通われましたが、残念ながら途中中断という形になってしまいました。そのため、歯科金属が原因だったかは不明です。当然、撤去後の補綴は、自費になり、時間、費用が必要になる為、お金を貯めて少しずつ進めている方や何もしない方、途中で中断する方等状況によって様々です。こういった理由のため、掌蹠膿疱症や口腔扁平苔癬が完治したという患者さんは、非常に少ないのが当院の現状です。

今後の取り組み、期待

近年、歯科でもチタン製のインプラントの普及が目覚ましい。パッチテストの試薬にチタンがないため、今後、メーカーに期待したい。セラミックの普及も目覚ましいが強度的に金属を超える物性ではない。そこで、歯科における金属アレルギー患者の歯科治療のための保険導入、今後、金属アレルギー患者を増やさないためにアレルギーの多い金属元素を含んだ合金だけを認めず、できるだけ生体安定性の良い金の含有量の多い金属を認めるなどの厚生労働省のご理解、医科(特にアレルギーや皮膚科)の先生方の歯科の現状のご理解と国民への情報提供を行ってもらい、国を動かしていくことが必要ではないかと私は思います。 

参考文献

1)中山秀夫、村田真道、森戸百子:歯科金属による感作の可能性について、歯界展望、43:382~389,1974
平山輝久,小池麻里、黒木唯文:ヒト唾液中に含まれる有機酸混合溶液中での鋳造した市販純チタンからのイオン溶出 The Journal of Japan Prosthodontic Society(掲載予定)